オレの名はとらお。荒野をさすらう一匹オオカミならぬ一匹キャットさ。
なに、お前は飼い猫だろうって?野暮なこと言うもんじゃねぇよ。オレは何者にも縛られねぇ。単に飼われたフリして美味い飯を貢がせてるのに、主人気取りのアイツらは気付いちゃいねぇ。全くちょろいもんだぜ。
おい、ちょっと待て。
なんかヤバい気配がする。 また奴が出やがったか。
ドス黒いボディーに、赤みを帯びた無数の手脚。平らな身体でどんなわずかな隙間でも侵入すると言う毒持ちモンスターだ。百足だかなんだか知らねぇがオレにとっちゃどれもなぶり殺しにされるだけの遊び道具だ。
ニンゲンどもがアレに噛まれると毒にやられて腫れ上がるらしいが、オレら猫族にはそんなノロマな攻撃は通用しねぇ。
ゴミ袋の合間に潜んでたアイツを、爪で引っ掻いて
「オラオラオラ!ヒソヒソ隠れてねぇで出て来いやー!」
けっ、オレのミッキーロークばりの猫パンチにビビって出て来やしねぇ。
そうこうしてるうちにニンゲンが気付きやがった。おい、待てよ!そいつはオレの獲物だ。
ニンゲンときたらビビりながらスリッパで滅多打ちに潰しやがった。ひでぇ殺り方だ。スマートさのかけらもねぇ。
そして潰れたそいつを燃え盛る薪ストーブに放り込みやがるとは…全く狩猟の美学がわかっちゃいねぇな、ニンゲンときたら。
まぁ、モンスターの結末なんて呆気ないもんだ。
一仕事片付いたら馴染みの酒場にでも顔を出すか。
おい、バーボンくれ。チェイサー代わりにマタタビ酒も頼む。それとその棚のつまみ出してくれ。あれだ、『銀のスプーン』って書いてやつな。
ふっ、バーボンが回って少し酔っちまったようだ。
酔い覚ましにニンゲンけしかけて、庭の縄張りで獲物を探すのがオレの日課さ。もしも縄張り荒らすやつを見つけたらなぶり殺しだ。
今日に限ってなにもいやしねぇ。
おい待て、ニンゲン。オレはまだモンハンするって言ってるだろ。
けっ今は安全ハーネスつけられてるから逃げられねぇ。オレとしたことがとっとと家に連れ戻されるとは。
まぁいいさ、逃げるチャンスはいつでもある。やつらニンゲンは隙だらけだからな。
連日なにやら消火栓みたいなもん作ってるが、まったくヒマな奴らだぜ。
さてと、オレら猫族は闇の住民。
次の夜が来るまでもう寝るぜ、あばよ。